日本の「空飛ぶクルマ」の最先端をゆく朝日航洋(前編)

図:朝日航洋の描くエアモビリティの将来イメージ

 これまで想像の世界でしかなかった次世代モビリティの一つ“空飛ぶクルマ”は、今や数年以内に商用化される段階にまで来ている。本記事は、空飛ぶクルマの市場概要と朝日航洋株式会社(以下、朝日航洋)における空飛ぶクルマプロジェクトにかける思いを、2回に分けてお届けする(前編)。(後編はこちら

 「空飛ぶクルマ」という言葉を皆さんはお聞きになったことがあるだろうか?初めて聞くという方に向け、朝日航洋の方のお話を元にまずは空飛ぶクルマを取り巻く状況について一旦整理してみる。

1.空飛ぶクルマの市場概要

(ア) そもそも“空飛ぶクルマ“とは?
 空の移動革命に向けた官民協議会の“空飛ぶクルマの運用概念”によると、
「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」
とされている。

 いわゆる次世代の飛行機を指し、正式には「電動垂直離着陸機」、英語ではeVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)と表される。世界的に見ても既に移動手段の一つとして認知されており、別名「空飛ぶタクシー」ともいわれる。主に観光・都市交通・災害対応・地方交通インフラ等での活躍が期待されている。

(イ) 空飛ぶクルマの沿革
 そもそもそどこからきたのか?1950年代頃から開発されていたとされる前身のVTOL(垂直離着陸機)の技術が派生したものが1960~70年代に軍事目的で発展したとされているが、実際のところ詳細は不明だ。eVTOL(電動式VTOL)自体は2000年代末から2010年代にかけてJoby AviationやVolocopterなどのベンチャー企業が立ち上がり、機体開発が盛んとなる。2020年代に入ると航空機メーカーや自動車メーカー、政府機関も参入した。

写真1:1950年頃のVTOL Short, SC.1

(ウ) 近年における市場での動き
 2025年3月末にEHangが中国当局から世界初となる空飛ぶクルマの営業許可(運営合格証)を取得。広州市と合肥市で営業飛行を開始予定となっている。
 日本では、2018年12月に開催された第4回「空の移動革命に向けた官民協議会」において空の移動革命に向けたロードマップ(案)が共有され、空飛ぶクルマの実現に向けた動きが活発化する契機となった。
 直近では、4月から開催の大阪万博でのデモ飛行に期待が高まっていが、当初予定していた有人飛行が無人飛行に変更となったうえ、デモ飛行中に機体の一部が破損したこともあり、日本国内での社会実装には険しい道のりのようだ。

(エ) 業界における海外の市場予測
 eVTOL Aircraft Market Size, Share & Trendsによると、現在(2023~2024年頃)初期段階のeVTOL市場規模は7億6千万 USD(日本円で約1,140億円)。この内訳としては、主に開発試験段階における研究開発費・試験機の制作及び運航が市場の中心となっているようだ。Deloitteの市場予測では2040年頃までに177億USD(日本円で約2.655兆円)ほどの規模になるとみており、本格的な事業化・普及促進が期待されているのが窺える。※

写真2:Courtesy of JobyAviation. (c) Joby Aero, Inc.

2.現時点での様々な課題

(ア) 開発段階での市場の方向性が定めにくい
 現在、Ⅴポートの世界基準は未確定要素が多い。航空機運輸の先進国である、主にEU(EASA)とアメリカ合衆国(FAA)がそれぞれ基準を設けており、日本がどちらに準ずるかが定まっていない。これらが日本国内で明確化される可能性は約2年後の2026年末の見込みであるとのこと。また、eVTOLの機体開発メーカーが多いことで固定翼(セスナ機等)とヘリコプターの製造割合等も先読みが難しい為、現時点ではⅤポートに必要な安全区域を広めに想定する必要がある。
 空飛ぶクルマを実際に飛ばすまでに、航空法の様々な制約をクリアしなければならない。運行する機体は、TC(Type Certificate「型式証明」自動車の車検のようなもの)取得に始まり、空を飛ばす為に必要な場外離着陸場の条件緩和要請や使用許諾も様々な調査や事前準備にリソースエネルギーが必要となる。

(イ) 隣接業界との差別化
 空飛ぶクルマ自体、垂直離着陸機という点では類似のドローンとの違いは何かを聞いてみたところ、機体の総重量が150kg以上か以下かが分界点だという。これもまた前述の航空法にて定められており、実際の空飛ぶクルマの機体開発にも大きく影響を及ぼす。一例としては、荷物(または人)を吊り下げて運搬するか機体内に積み込むかでも重量バランスの問題などもあり、初期段階では物資輸送がメインとなると推測されるとのことだ。

(ウ) 空飛ぶトラック
 物資輸送か人員輸送かで行くと、大手運送会社も既に「空飛ぶトラック」として物資輸送の分野で開発研究を行っているという。昨今の運輸業界のドライバー不足の解消を担う点からのアプローチで、いずれ自動運転を視野に入れているようだ。
 自動運転を見据えるとなると、いずれ操縦士や人的リソースが不要になってしまう可能性もあり、いかに付加価値を提供するかが、一つの大きな課題である。

次回後編では、朝日航洋の開発メンバーのお話を中心にご紹介する。

※ 市場動向のレポートは、いずれもライセンス等の関係もありグラフ等でお見せできないのは残念だが、今後のビジネス展開を目論む方は、必要に応じてぜひ情報を入手していただきたい。

■関連参考資料
 空の移動革命に向けた官民協議会 空の移動革命に向けたロードマップ
 Deloitte Change is in the air
 PwC 空飛ぶクルマの法規制動向 

■取材・編集
 G空間情報センター 保坂志保

(2025年5月 メールマガジン掲載)

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