“人流データで街が変わる! 「今」を知り「明日」を読む ビジネスモデル作成イベント”の開催レポート

[主催] 国土交通省不動産・建設経済局情報活用推進課
[協力] 横浜市、公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー、日本電信電話株式会社(NTT)
[事務局] 国際航業株式会社
[参加者] 横浜国立大学「チーム横国」、神奈川大学「チーム神大」、情報科学専門学校「チーム情報科学」
[開催日程] 2021年12月18日(DAY1)、2022年2月17日(DAY2)
[利用データ] Wi-Fi人口統計データ(国際航業株式会社)、流動人口データ(株式会社Agoop)


開催レポート詳細はこちらからご覧ください(PDFが開きます)


【イベントの目的・概要】

地域が抱える観光課題やニーズに応えられるビジネスモデルが希求されています。それには具体的なアイデアやアクションプランの創出が不可欠であり、その一手として「人流データ」の分析・活用による課題解決の可能性を見出そうというのが本イベントの目的であり、全国への普及も視野に入れています。
今回は、横浜市に協力いただき、横浜港湾地域が抱えた観光課題の解決につながるプラン策定に挑みました。学生主体の3つのチームが、約2ヶ月におよびビジネスモデルの作成に取り組みました。取り組む課題の設定などを行ったDAY1と、作成したプランの発表および講評を行ったDAY2。二日に分けて開催されたオンラインイベントの内容をレポートします。


【DAY1】

主催者や参加者らが初めて一堂に会したDAY1。インスピレーショントークで協力団体から取り組みにおけるポイントが伝えられた後、チームごとに4つのワークを実施。最後に、DAY2での発表に向けた計画づくりと、その共有がなされました。

インスピレーショントーク
  • 横浜市政策局:横浜市の課題と、その対策の方向性を示唆。多様なデータ分析に基づいて施策を推進・検証できるデータプラットフォーム構築の必要性に言及しました。
  • 横浜観光コンベンション・ビューロー:横浜市の観光課題と施策の方向性等を提示。新型コロナからの復興や、世界的なサスティナビリティの潮流など、様々な視点・切り口を紹介しました。
  • NTT:人流データから「取得できるデータ、期待できること」の説明や、データ活用における要点をアドバイス。事例も挙げながら、課題決定や対策案について述べました。
ワーク1:取り組みたい課題を決める

ワーク2:取り組む課題のエビデンスを探る

ワーク2ではワーク1で取り上げた課題のエビデンスを探るために、人流データというものをより深く考えて検証しました。

ワーク3:課題解決のアイデア創出 ~ ワーク4:アイデアを検証するためのデータを考える

ワーク3では出したアイデアを「社会的インパクト」と「実現可能性」の2軸で分類し、できるだけ両軸が高まるよう各アイデアを検討することになりました。続けてワーク4では、アイデアの妥当性や人流データとの親和性などを検討しました。


【DAY2】

一般の聴講者約100名も迎え、オンラインで公開されたDAY2。各チームが15分間で「取り組んだ課題、課題のエビデンスとなる⼈流データ、解決アイデア、解決アイデアに利⽤した⼈流データ、プロトタイプ(検証結果の共有)」などを発表。それを主催者や協力団体らから構成された審査員が評価し、3賞を決定しました。

各チームの発表

チーム横国 『横浜スタジアム来訪者の行動変容』(実用・実行部門 優秀賞受賞)

コンセプトを「今日をもっと特別な一日に」とし、野球観戦後にもう一つ、寄り道できるサービスを提供することで球場周辺地域での消費を促すというのが提案方針です。横浜スタジアムやスタジアム周辺が持つポテンシャル(コロナ禍前後の来場者数と層、周辺の観光客数)を人流データ等で確認し、試合前後の会場周辺の人数推移を分析。「地域の銭湯やサウナ施設と連携」「地域のパン屋の売れ残りを球場近くで販売」といった2つのサービスを提案し、経済効果も試算しました。

〈人流データ・活用のポイント〉

– 来場者の、幅広い世代層を確認。会場周辺の滞在者数を、時間経過とともに把握
– 地域別データから、デーゲーム後(17~18 時頃)の、関内駅周辺の人の密集を確認
→帰宅の集中を緩和する、回遊施策の必要性を示すエビデンスに

– 駅から離れたエリアで唯一、バス停が混雑しているのを発見。バス待ちの可能性大
→バス停までのルートで、どこへ出店すべきかのエビデンスに

横国チーム「人流データ分析」発表スライド(抜粋)

「地域の銭湯やサウナ施設と連携」発表スライド(抜粋)

チーム神大 『音楽施設を活用した、みなとみらい活性化方策』(データ活用部門 優秀賞受賞)

みなとみらいエリアの豊かな音楽資源に着目し「横浜にミュージックツーリズムを導入しよう」という提案です。赤レンガ倉庫などの観光資源を巻き込む形で地域連携を促し、音楽イベントに訪れた観客を回遊させて消費を拡大しようと考え、イベント参加者のエリア内における歩数をアプリでカウントし、クーポンと交換できるポイントに変換するアプリ開発を提案。さらにアプリの登録情報や利用データから、その日に対象エリアを訪れているターゲットを分析・判断し、タイムリーな情報を提供。アーティストごとに顧客の傾向を分析し、翌月の顧客予想をするなど、マーケティング的な活用を視野に入れています。

〈人流データ・活用のポイント〉

– 新型コロナ流行の前後で、人流(人数)を比較。コロナ後の、大幅減少を確認
– ライブイベント開催の有無で、人流(人数)を比較。開催日の大幅増加を確認
→ライブイベントの、集客ポテンシャルを示すエビデンスに

– ライブ開催日の、公演中と公演後の人流(人数)変化を比較。終了後の急激な減少を確認
→観客が周辺施設を利用していないことを示すエビデンスに

神大チーム「人流データ分析」発表スライド(抜粋)

「アプリ開発」発表スライド(抜粋)

チーム情報科学 『回遊を生み出す魔法のベンチ?!』(アイデア部門 優秀賞受賞)

チームは横浜への来訪者を増やすことを目的としたアイデアを発表しました。ターゲットの選定に人流データを活用すると、来訪者は20代女性が多いこと、遠方からの来訪者数が大きく落ち込んだままであることが判明し、近郊の人をターゲットにしました。横浜の観光スポットは少々離れた位置関係にあり「ベンチがもっとあれば、回遊が生まれるのでは」と仮説を立て現地調査を行いました。実際は道中にはたくさんのベンチがあったことから、ベンチの新設ではなくベンチへクーポン(QRコード)を貼付することとし、さらにキャンペーン用サイトもモックアップ制作するなど、特技を生かした提案をしました。

〈人流データ・活用のポイント〉

– 来訪者の属性分布データから、20代女性の来訪者が多いことを発見
– 神奈川県外からの来訪者数が、低いまま回復していないことを確認
→近郊の人をターゲットにすべきことを示すエビデンスに

– みなとみらい21新港地区から他の地区への回遊が少ないことを確認
→回遊促進策が必要なことを示すエビデンスに

情報科学チーム「人流データの活用」発表スライド(抜粋)

「ストーリーテリング」発表スライド(抜粋)とモックアップサイト


【総評・まとめ】(主催者の国土交通省より)

まずは3チームともに、非常に高い意欲と、プレゼンテーションスキルを持つことに感心しました。そして何より、限られた時間の中で、充実した取り組みと発表を見せてくれた学生らを高く評価します。今回のイベントに留まらず、今後ぜひ施策を現実のものにして欲しいです。また、学生らによる人流データの活用という点では、課題のエビデンスやアイデアのポテンシャルを確認するためだけでなく、解決策の立案・試作の中でもデータを取りながら、それをさらに施策のブラッシュアップに活かしていくという点が印象的でした。その上で「人流データは万能ではない」点も認識して、フィールドワークや実体験を採り入れたことを高く評価します。これらを組み合わせ、掛け算することで、新たな価値が見出せる可能性を感じました。


【今後の人流データの活用に向けた課題と展望】

アイデアソン・ハッカソンで確認できたこと

(1)産学官でのオープンデータ・オープンイノベーションの取組みの強化
イベント主催者としての国土交通省、横浜市によるイベント機会の提供、学生のイノベーション力、民間企業によるデータや技術の提供といった、産官学による一体的な取組によって、イノベーティブなアイデアを創出することができました。

(2)エビデンスに基づく政策立案(EBPM)と人流データの有効性
各チーム人流データを活用しながら地域課題の発見や、ビジネスモデルのターゲットの選定、ビジネスモデルの精度の向上を行うことができました。また、単なるアイデアの検討だけでなく、持続可能なビジネスとして成立するためのエビデンスとしても人流データが広く活用されていました。
人流データは、活用することで仮設と検証を繰り返すビジネスモデルのPDCAを効果的に回していくことができます。政策立案場面(プラン)では、人流データで現状分析や課題の探索を行うことで、エビデンスに基づいた政策立案(EBPM)が可能となります。政策効果の検証場面(チェック)では、人流データで政策前後の変化を比較検証することが可能となります。

(3)継続的な活動の必要性
本イベントではビジネスモデルの提案にとどまりますが、今後社会実装に向けて地域と協力しながら取り組むことで、社会課題の解決だけでなく、地域の課題解決力の向上に貢献できるのではないかと考えます。

人流データの活用と各自治体への展開に向けて

(1)課題の発見からEBPMへ
全国的に地域の課題は多種多様に存在しますが、人流データはそれを映し出せるデータの一つでもあります。人流データの仕様や精度には注意しつつ、データを分析していくとファクトとして課題を発見することができます。
さらに、施策の結果として住民の行動変容を人流データから捉えることで、施策の効果や進捗状況を数値(KPI)として把握することができます。まさに人流データの活用はEBPMの取り組みに直結する活動であると言えます。

(2)担い手とツール
各自治体で人流データを地域課題の解決に利用する場合、データを扱う担い手の確保が必要です。本イベントでは、人流データに触れたことのない学生が人流データの分析を行うため、事務局が人流データの抽出、加工、BIツール上でデータを提供し、データの見方やツールの使い方もハンズオンで支援しました。このような活用事例の開発を実施し、公開することによる、担い手の育成を視野にいれた活動が重要になると考えます。また人流データは一般的にデータ量やノイズが多いため、人流データをハンドリング、可視化するには安価で高機能なツールの普及も求められます。

(3)モニタリングの重要性
当該イベントでは、国交省で公開しているオープンデータと市販されている人流データを利用しましたが、EBPM的に人流データを活用するには課題に適したデータの選択と継続的な利用、課題によっては自治体や地域の担い手が自ら人流データを取得することも含めて、適切なデータの継続的な取得が求められます。