AIと航空写真を用いた河川の土砂堆積解析技術の開発

株式会社建設技術研究所
湯浅 玲於奈
株式会社建設技術研究所(以下、当社)では、「災害リスク低減のための河川管理の効率化」の実現を目指して、横浜市と共同で、AI技術等を用いた土砂堆積及び植生繁茂状況の自動判別・分析技術を開発し、実証実験に取り組んできました。この度(2023年9月27日)実証実験が完了し、併せてサービス提供を開始しましたので、ご紹介します。
1.技術開発の背景
横浜市では、洪水による溢水・氾濫の防止を目的として、市職員が土砂の堆積状況や植生の繁茂状況を目視で点検し、河川下流部の河道断面が適切に確保されているかどうかを評価しています。しかしながら、管理すべき河川が38本と非常に多く、総延長距離86kmと非常に長いため、点検には膨大な労力と時間が必要なことや、点検者のスキル・経験によって点検結果に差が生じることが課題となっていました。
2.AI技術等を用いた実証実験の結果概要
これらの課題に対応するため、以下の技術開発を行い、横浜市と実証実験を行いました。
(1)河川内で土砂堆積や植生繁茂が生じている箇所を撮影した航空写真を、AI画像解析技術を活用し、約70%の精度で自動判読
(2)SfM地形解析技術等(※1)を活用し、航空写真(※2)から河道内の地形を3次元データ化し、土砂堆積量を誤差±30%の精度(※3)で推定
(3)(1)(2)の技術を現在と過去の航空写真に適用し、土砂の堆積や植生の繁茂の量、及び変化傾向を分析
※1 Structure from Motion:多視点の写真から3D形状を復元する手法
※2 オーバーラップ率・サイドラップ率:80%の高解像度航空写真(横浜市提供)に基づく
※3 非植生域での評価(SfM解析では植物の高さを含んだデータが生成されるため、植生域で土砂堆積量を算出するためには、計測値から植生高さ分を差し引く処理が必要)
※4 2.(2)の専門用語に関する参考情報、本記事末尾にも掲載しております。
図1:航空写真解析による堆積状況の把握とシステム化のプロセス
3.得られた効果
既存の航空写真を活用することで、土砂堆積・植生繁茂の現状やその経年変化を定量的に把握できることが明らかになりました。さらに、この結果から、洪水の安全な流下を阻害している懸案箇所、早急に土砂撤去等の対策が必要な箇所の広域・面的な抽出が可能になり、効率的・効果的な河川管理の実現に大きく寄与できると考えます。
4.今後の取り組み
当社は、この技術を活用して土砂堆積や植生繁茂を自動判読・分析するサービスを全国に展開し、河川管理の高度化に貢献していきます。
【関連参考ページ】
・本記事に関する弊社紹介webページ
・2.(2)に関する参考情報
SfMについて知っておきたい10の基本用語(PIX4D社webページ)
SfM(地理空間情報技術ミュージアム用語集、国際航業社webページ)
※2のオーバーラップ等に関するイメージ(下図)
【本記事に関するお問い合わせ先】
株式会社建設技術研究所 東京本社情報・電気通信部 川添(yu-kawazoe@ctie.co.jp)
(2024年1月 ニュースレター掲載)