G空間情報を用いた電波の可視化によるワイヤレス通信システム評価

株式会社構造計画研究所 情報通信営業部
小松明子 川村雅彦
株式会社構造計画研究所(以下、当社)では、電磁界・電波伝搬・ネットワークシミュレーション技術等を用いた情報通信分野のエンジニアリングコンサルティングを行っています。本記事では、G空間情報を用いて見えない電波を可視化する技術、『電波伝搬シミュレーション』についてご紹介します。
1.はじめに
現在電波は様々な分野で利用されていますが、携帯電話や無線LANに代表されるワイヤレス通信システムは、今や生活に欠かせないものになっています。ワイヤレス通信システムにおいては、電波が確実に届くことと、他のシステムに影響を与えないことの両立性を考える必要があります。その為には、まずは物理的な電波の振る舞い(どれくらいの強さでどこまで届くのか)を知ることが重要となります。しかし、電波は建物や山等の周辺環境によって挙動が変化しますが、実際に目で見ることができないので、状況の把握が難しいという課題があります。
当社では、これまで多くの研究機関や大学等と培ってきた「電波伝搬技術」の知見と研究実績から、電波の振る舞いをシミュレーション技術で解析し、見えない電波を可視化することで電波の状況を把握し、ワイヤレス通信システムの設計の評価や新しいシステムの研究開発を支援しています。
図1:様々な分野で利用されるワイヤレス通信システム
2.電波伝搬のシミュレーション
電波伝搬シミュレーションとは、電波がどの程度の強さで届くのかを解析・可視化するものです。代表的な手法として、電波を光に見立てて解析するレイトレース法というものがあります。レイトレース法では、建物等の障害物が配置されたデジタル空間に無線機を配置し、無線機を光源とみなして光と影を計算します。光が届く明るい場所ほど無線が通じやすい強い電波環境で、影の濃い場所ほど無線が途切れやすい弱い電波環境となります。下図(図2)は、ビルの上から発射した電波をシミュレーションした例です。オレンジ色の場所は電波がよく届いている所、青色の場所は電波が届きにくい所を示しています。
図2:電波伝搬シミュレーションの例
3.電波伝搬シミュレーションは、何に使われるのか?
1)無線設備の置局設計
携帯基地局等の無線設備を少なくすることで設置・維持コストは下がり経済的です。一方、基地局が少なすぎて電波が届かないエリアができると、サービス品質が落ちてしまいます。基地局の数と設置位置を机上で最適に置局設計するために、電波伝搬シミュレータを利用します。置局設計者は、G空間情報で構成されたデジタル空間に基地局を擬似的に設置し、建物を考慮した電波の強度を計算・可視化することで、想定サービスエリアがカバー可能か確認することができます。
2)無線機導入後のトラブル対応
無線機の導入後、通信ができないといったトラブルが発生することがあります。このような場合、原因究明のため現地調査で電波強度を測定するとともに机上検討を行います。トラブルが発生した環境を、G空間情報を用いたデジタル空間に再現して、電波伝搬の経路や電波強度をシミュレーションにより可視化して状況を把握します。デジタル空間では、現地での電波測定では把握しきれない広い範囲について確認することが可能です。
4.電波伝搬シミュレーションで利用するG空間情報
電波伝搬シミュレーションでは、建物等の障害物を3Dポリゴンデータで作成する必要がありますが、G空間情報の建物データや地形データを利用することで障害物データの作成の手間を軽減し、より現実に近い環境を再現できます。近年ではProject PLATEAUのような3D都市モデルが有効に利用されています。(参考:G空間情報センター 3D都市モデル(Project PLATEAU)ポータルサイトページ)
また、レーザースキャナを用いて点群データを容易に取得することができるようになってきました。点群データそのままでは電波伝搬シミュレーションで利用できないため、当社では点群データから電波伝搬シミュレーション用の3次元モデルを生成する研究を行っています。
図3:ウェアラブル計測デバイスNavVisで測定した点群データの例
5.おわりに
今後もワイヤレス通信システムの性能向上や用途拡大、更にはドローン・衛星等の上空と地上を3次元的に連携するような新たな電波の利用方法が見込まれていますが、利用環境に応じた検証が必要であり、それにはデジタル空間でのシミュレーションが効果的です。
当社では、屋内外の3次元モデルとその環境下における電波の振る舞いを、G空間情報を用いてデジタル空間上に再現することで、より良いワイヤレス通信システムの検討・構築に貢献していきたいと考えています。
図4:デジタル空間でシミュレーションを用いてワイヤレス通信システムを検討するイメージ
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電波伝搬シミュレーション
(2023年7月 ニュースレター掲載)