公園の新たな価値を創造するDX戦略 -国営沖縄記念公園の利用促進・魅力向上への取組み-

日本工営株式会社
福岡支店 基盤技術部 統合情報サブグループ
舘川 龍希
1.国営沖縄記念公園DXの取り組み概要
本稿では、国営沖縄記念公園(首里城公園・海洋博記念公園)におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みについてご紹介します。DXは、デジタル技術を活用することで業務プロセスやサービスの向上、職員の働き方改革に貢献するものです。沖縄記念公園事務所から弊社が受託した業務では、コロナ禍など社会情勢の変化や首里城復元、観光客で賑わう海洋博公園が直面する課題の解決、運営維持管理の課題やサービスニーズへの対応を目指しました。公園の課題やニーズとデジタル技術(シーズ)をマッチングし、実証実験を通じて評価・実装を進めてきました。

図1:事業の流れ
2.公園運営の課題(ニーズ)の整理
公園運営においては、来場者数や滞在時間の把握、シーズン外や夜間の不審者侵入検知、安全監視、バリアフリー移動、事故・急病の早期検知、日報・監視機能強化など、多岐にわたる課題が存在します。限られた予算の中で維持管理とサービス向上を両立する必要があり、デジタル技術の活用が不可欠となっています。デジタル技術の効果的な活用方策の検討のため、既存資料の分析や関係者へのヒアリングを通じて、園内の具体的な課題を洗い出しました。
図2:ニーズの整理について(一例)
3.技術(シーズ)の調査とマッチング
弊社では、課題解決に資する新技術として、エッジAI、自動運転サービス、XR(VR・AR・MR)技術などの調査を行いました。その上で、これらの技術を有するベンダーの協力のもと、短期的な実装可能性、ビジネス化・実用化の期待、コスト面などを評価し、実証実験の対象とする技術を選定しました。例えば、首里城公園・海洋博記念公園の課題に対して、XR展示の高度化(ガイド・展示解説・事業説明への活用)、AR体感型自動運転(バリアフリー移動支援)、エッジAIによる侵入者検知・人流解析などを選定しています。

図3:掘り出したシーズ(カルテ抜粋イメージ)の例(左)・ニーズとシーズのマッチング結果(右)
4.実証実験の実施と評価
選定した技術を用いて、以下の実証実験を実施しました。
(1) エッジAIによる人流解析・侵入者検知
首里城公園では復興工事中の有料区域内で来場者の人流把握、海洋博公園では美ら海水族館周辺の交通量(来場者の往来)把握にエッジAIカメラ技術を活用しました。現場側でカメラ映像を直接AI処理することで、リアルタイム処理や通信コスト抑制、セキュリティ強化、オフライン動作などの利点が確認されました。展示解説や案内改善などサービス向上に寄与し、来園者の行動や人流を見える化することで、定量的な効果検証も可能となりました。
侵入者検知については、海岸区域でシーズン外や夜間の侵入把握、シーズン中の警備補完にエッジAI技術を活用しました。侵入者検知と同時に警備員への通知を行うことで迅速な対応を実現しましたが、誤検知や夜間の検知困難性、通知頻発などの課題も明らかになりました。
(2) 体感型自動運転サービス
MRコンテンツを提供しながら園内を走る自動運転モビリティ(SC-1)を導入し、公園内の先進的な移動サービスとして実証実験を行いました。周遊ルートに合わせて案内を行いながら移動するモビリティについて、利用者から高評価を得ました。社会実装への期待や支払い意志も明らかになり、運行に必要な条件等も整理することが出来ました。
(3) XR技術による展示解説の高度化
首里城復元事業の設計BIM/CIMデータを活用し、来訪者向けVR・XRモデルを作成しました。復興工事中の有料区域エリアで体験コンテンツを提供することで、来場者満足度や再来訪意思の向上に貢献しました。VRゴーグル等の体感デバイスや施設内での大型ディスプレイでの閲覧環境を構築し、復興後の正殿を魅せる体験コンテンツも実装しています。

図4:各実証実験の様子
5.成果と今後の展望
令和6年に、国土交通省インフラDX大賞「優秀賞」を受賞するなど、取り組みの成果が認められました。令和4年度の実証実験を踏まえ、令和5年度以降も自動運転やXR技術の社会実装を推進し、公園サービス向上に寄与しています。今後もこれらの取り組みで得た知見を活かし、国営公園をはじめとした都市公園でのDXの普及促進や横展開、さらには社会貢献につながる技術の磨き上げに取り組んでいきたいと考えています。
最後に、本取り組みを積極的に推進してくださった沖縄総合事務局や運営維持管理事業者の皆様、技術マッチングに協力いただいたベンダーの皆様に感謝の意を表します。
■問い合わせ先:
日本工営株式会社 福岡支店基盤技術部統合情報SG
渡部 Email:a5669@n-koei.co.jp
舘川 Email:b0471@n-koei.co.jp
(2025年10月 メールマガジン掲載)