3D都市モデルを活用した土砂災害シミュレーションの精緻化に係る取り組み


株式会社構造計画研究所    
社会デザイン・マーケティング部
小野 晋太郎

 構造計画研究所(以下、当社)では、国土交通省が主導する「Project PLATEAU」に参画し、各種シミュレーション技術をベースとした社会課題解決に取り組んでいます。

 2023年度ユースケースとして、株式会社ウエスコ様と当社の提案共同体で、岡山県備前市を対象に、家屋の倒壊状況等を加味した精緻な土石流流体数値シミュレータおよびその3D可視化システムの開発を行いました。
 本記事では、3D都市モデルの更なる普及・充実によりその実効性の向上が大いに期待される、土砂災害シミュレーションの精緻化に係る取り組みをご紹介します。

1.災害時の構造物損壊リスク評価と3D都市モデル
 当社は、構造設計や動的解析の技術をベースに、地震等の外力に対する構造物の壊れやすさや最大予想損失額を確率論的に評価する、「災害リスク評価」の実績を豊富に有しています。当社の災害リスク評価は、地震災害をはじめ、近年頻発する気象災害に対しても、建築物や設備の損傷発生確率評価技術を核に、行政/民間によるハード/ソフト対策の検討に際して、費用対効果を考慮した対策の優先順位付け等を支援しています。
 災害に対する構造物損壊リスクを精緻に評価する際は、築年代や構造種別を反映させた構造物の三次元立体モデルをコンピュータ上で作成したうえで、動的解析(シミュレーション)を行って構造物の損壊確率(フラジリティ)を算出します。3D都市モデルの空間属性情報及び主題属性情報が活用可能となったことにより、構造物のフラジリティ評価を広域かつ効率的に実施することができるようになりました。


図1:木造家屋の三次元立体モデルを用いた動的解析

2.3D都市モデルを活用した精緻な土砂災害シミュレーション(国土交通省 2023年度PLATEAU ユースケース)※ (株)ウエスコ、(株)構造計画研究所 共同提案体により実施
 現在運用されている土砂災害警戒区域等のハザード情報は、地形から力学的に推定される最大範囲を網羅するものとなっています。しかし、中山間地等では土石流警戒区域等が幾重にも重なり、避難計画立案が困難な状況が発生しています。
 今回、「Project PLATEAU」で整備された3D都市モデルを用いることで、土石流等が家屋に衝突することによってもたらされる、エネルギーや流動方向の変化を考慮した土石流シミュレーションが実施できるようになりました。これにより、上述の構造物損壊リスク評価技術を活用しつつ、家屋の倒壊等を考慮した形で土石流の氾濫範囲を緻密に解析し、比較的リスクの低い地点等を工学的根拠に基づいて示すことが可能となります。
 土石流の解析には、氾濫や流出・津波・土石流モデル等の様々な数値シミュレーションを実行可能なフリーソフト「iRIC」を利用し、土石流・泥流の流動・堆積過程を表現可能なiRICの解析ソルバー「Morpho2DH」をカスタマイズして活用しました。カスタマイズにあたっては、Morpho2DHの開発者である京都大学 竹林洋史准教授、広島大学 三浦弘之教授監修のもと、3D都市モデルの読み込み機能および家屋倒壊判定機能を追加実装しました。さらに、解析結果として出力される土石流の氾濫範囲・氾濫速度および家屋損壊の状況を、土木や工学の専門知識を持たないユーザーがWebブラウザ上で直感的に把握できるよう、3D可視化プラットフォームとして「Terria Map」を採用し、Web上で解析結果をアニメーション表示できるようにしました。


図2:WebGIS上で土石流シミュレーション結果を可視化した様子

 今後は、評価ロジックの精度向上等システムのブラッシュアップを図るとともに、行政職員や地域住民、さらには解析を担当するコンサルタント等の幅広い関係者に今回の取り組み成果を活用いただくことで、土砂災害に対する避難計画の高度化が促進されることを期待しています。

構造計画研究所 地震リスク評価
https://kaiseki-kke.jp/consulting/earthquake/page03.html

Project PLATEAU Use Case 精緻な土砂災害シミュレーション
https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/uc23-02/

■本記事に関するお問い合わせ
 株式会社構造計画研究所 社会デザイン・マーケティング部
 担当:小野晋太郎 Mail:shintaro-ono@kke.co.jp
 https://www.kke.co.jp

(2024年12月 メールマガジン掲載)

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