潜入取材!航空測量会社(後編)~だから私達は空を飛ぶ~

地理空間情報のデータを扱う人は多いが、そのデータを作る為の作業の実態を知る人は限られている。そのなかでも一際ニッチな “航空測量”という仕事は、多くの人が知り得る機会がない。そこで今回G空間情報センターでは、航空測量大手のアジア航測株式会社(以下、アジア航測)の航空測量部隊を取材した(2022年12月)。
(前編はこちら)
【後編:航空測量の仕事のやりがいと魅力とは】
写真1:アジア航測八尾運航所にて
■航空測量業界の課題
格納庫で一通り見学させてもらいながら説明を受け、我々一般人には想像に難い話がいくつか出てきた。飛行機という限られた空間のなかで、長時間空を飛ぶ。これが如何に大変な事か。
取材を通じて知り得た、現代の航空測量業における課題をいくつか例示する。取材したアジア航測ではこれら課題に向き合いながら日々奮闘している。
課題1「需要と供給のアンバランス」
日本の航空機使用事業(航空測量等)の業界は、人口に占める割合からいっても欧米諸国に比べると著しく小規模だ。昨今の日本国内での自然災害発生数の増加や地理空間情報の活用促進事業等、ニーズが今後増加傾向になるのは容易に予測がつく。ご存知のとおり航空運送業界(旅客機等)では、コロナ禍の影響で運航数も激減した為人員削減を迫られたものの、今ではインバウンド需要の急激な回復に人員が追いついていない状況にある。これは他の業界にとっても共通の課題である。
課題2「従事者に必要な知識や国家資格など、狭き門」
航空機の運航に関する従事者(操縦士・整備士・運航管理担当等)は、実に様々な国家資格・技術知識の習得が必要だ。撮影士の場合、特に定められた国家資格は無いものの、アジア航測では社内認定試験や各種規定が設けられている。
課題3「過酷な業務」
数時間に及ぶ飛行機の搭乗、場合によっては悪天候による乗り物酔い等、体力・気力共に強靭であることが求められる。航空測量では特に男性と女性の体力的な違いやトイレ等が課題として挙げられる。アジア航測では、固定翼と比べ飛行時間が2~3時間程度と短い回転翼での業務シフトの入れ替え等、オペレーションでの工夫を積極的に取り入れている。
課題4「人材不足」
地上測量では山間部での測量等、身体能力を求められる現場もあるがそうでない現場もある。山が好きな人や体力に自信がある人はこのような業務に進んで対応してくれるケースもあり、比較的オペレーションの調整は可能だ。しかし航空測量においては人材が限られている為、体力や体質に合わない業務を執り行わなければならないというのが現状である。航空測量業界においても、一定数以上の人材確保のうえ適材適所のマネジメント力が求められることは必至だ。
■航空測量という仕事のやりがい・魅力とは?
今後増加すると予想される航空測量業界のニーズに応える為にも、前述のようなハードルをクリアしていかなければならない。そのような中、彼らはなぜこの困難な仕事に携わるのか?彼らの持つ独特な雰囲気は一体何なのか?その真意を知るべく、それぞれに話しを聞いてみた。
「日本全国、自由に空を飛ぶことが出来る」 操縦士:森重氏
航空運送業(旅客機等)は、決まった路線やその会社が持っている路線で且つ自分の持っている資格で可能な範囲でしか空を飛べない。しかし、航空機使用事業(航空測量等)は、日本中各地に撮影する場所があり必要であればどこでも空を自由に飛び回ることが出来る。
業務の進捗状況によっては着陸地で滞在し、周辺地域を知る機会に出合う。離陸時に天気が悪ければ離陸地でも着陸地でも休みとなる(勿論、天気が良ければその逆で、土日休日であろうと飛ぶことになる)。これは航空運送業には無い大きな魅力の一つだ。その行った先に何があるのか?日本国内各地に降り立ちその地域の様子を見聞きすることが出来ることを知った時、全国を周ってみたいと思った。空港があればどこでも行くことが出来る。旅客機は“今”人を運ぶ仕事。航空測量は人々の“未来”の幸せを作る為に飛ぶ仕事と言えるだろう。
「副操縦士のつもりで操縦士を地上から支える責任感」 運航管理(地上サポート):鈴木氏
大学で操縦士になる為の勉強をし、実際に事業用操縦士の資格も取得した。しかしコロナ禍の影響もあり、操縦士としての仕事に就くことを断念。それでも飛行機に関わりたくてこの仕事を選んだ。
地上からのサポートは、天候状況のモニターやシステムで表示されない飛行中の航空機の情報をシェアする業務。上空での撮影延長・中断などの判断補助や変更飛行ルートの提案・調整を行うのも安全運航の為に重要な役割である。
操縦士は、一人で空を飛んでいる。自分は地上にありつつも操縦士を支援する立場、即ち副操縦士の役割を担うくらいの気持ちで操縦士のサポートをしていることに責任感と充実感を覚える。そのサポートを如何に極めるかが、自身の目指すところであり仕事の大きなやりがいとなっている。
「帰ってきた時のメンバーの顔」 運航管理(地上サポート):井上氏
地上と上空との板挟みの立場にあるのは否めない(笑)が、活気があるこの現場、この仕事が好き。気づけば10年以上この職に就いている。特に撮影を終えて帰ってきた直後のメンバーの顔を見るのが好き。撮影が上手く行ったときに見せる彼らの顔はとても良い表情をしている。それは言葉ではとても言い表せないものだ。
「達成感」 撮影士:岡田氏
撮影する時は、必ずしも良い天候とは限らない。それでも飛ばなければならないのがこの仕事である。飛行機を飛ばす為には、整備士の入念な点検・整備、地上からのサポート等が全てあって成立する。
特に撮影士は機長(=操縦士)と飛行機という狭い空間に長時間一緒にいることで、自然と信頼関係が深まっていく。それは自身が命を預けられるということを意味する。上空での、しかも尋常ではない状況下において、お互いが信頼し瞬時に判断が下せるかどうか。ここぞという時は、機長の目つきも変わる。次々と新たな判断を求められ、その判断が正しかったのかどうか、陸に降りてみないと分からないこともある。緊張感のなかで全てが上手く行った時、機長との信頼関係が感じられた時、とても(良い意味で)シビれる。この判断の良否が“達成感“となって形となるのが、この仕事の最大の魅力だと思う。
「探求心」 整備統括室長:朝比氏
カッコイイ仕事に就きたい。学生の頃には本気でサッカー選手を目指していたが、敢え無く挫折。ある時、整備士の求人パンフレットを見て「カッコイイ!」と思い、それが理由で専門学校へ進む決意をした。
整備の仕事とは、自分にとっての探求心である。自分が整備した機体が大空を飛んでいると考えるだけで、心が躍る。その一方で、機体は大丈夫かと不安がよぎることもある。自信を持って彼らを送り出し、無事帰着した時は素直に喜び、達成感を味わう。飛行機への探求心、人に対する探求心。それがこの仕事への原動力となっている。
(*写真は、音で機体の状態をチェックする実演の様子)
「安全・安心」 撮影部長:白澤氏
全てにおいて、安全・安心が第一。これがなければこの仕事は成り立たない。かつて一度だけ経験した恐怖。上空で飛行機のトラブルでエンジンが静かに止まり、動揺のあまり普段なら当たり前に出来るはずのシートベルトの装着も手がまともに動かなかった。緊急着陸により無事に帰還できたその経験があったからこそ、安全管理が如何に大切か、人一倍説得力を持って伝え続けることが出来る。自身にとっては、安全・安心こそがこの仕事で挑戦しつづける最大のミッションである。
■取材を終えて
操縦士(パイロット)や整備士などは、それなりに知られた資格・仕事であったが、今回の取材で実に奥深い側面を知る機会となった。航空機に操縦士と同乗する撮影士や運航管理(地上サポート)の存在は、なかなか知られていない職業。航空測量に従事する方々を知ればするほどに魅力というか、新しい世界が見えてくる。こういった職種が日本の社会・未来のために活動していることをぜひ興味を持って知っていただき、この職業に就きたいという人が増えることを期待したい。
終始彼らの穏やかな笑い声と共に、度々使われた言葉が「緩急」、「ON/OFF」、「メリハリ」。
話を聞けば聞くほど、困難なミッションで危険も伴う航空測量という仕事。しかしなぜ彼らは楽しそうに、また真剣に自分の思いを伝えてくれるのか。それは、この仕事が日本社会にとって重要な役割を担うものであり、また彼らが困難な場面をたくさん乗り越えてきた事の表れではないだろうか。だからこそ今彼らのこの深い信頼関係が構築され、使命感を持って続けていける仕事だと。
今回ここでは紹介しきれないことがたくさんあるが、より深く航空測量について知見を深めたいという方がいれば、ぜひこの機会にアジア航測の門を叩いてみていただきたい。
■アジア航測株式会社
https://www.ajiko.co.jp/contact
「製品情報お問合せ」からアクセスいただき、担当者名に「空間情報技術センター航空・撮影DX担当」とご記入ください。
取材・編集:G空間情報センター 保坂志保
(2023年7月メールマガジン掲載)