潜入取材!航空測量会社(前編)~だから私達は空を飛ぶ~

地理空間情報のデータを扱う人は多いが、そのデータを作る為の作業の実態を知る人は限られている。そのなかでも一際ニッチな “航空測量”という仕事は、多くの人が知り得る機会がない。そこで今回G空間情報センターでは、航空測量大手のアジア航測株式会社(以下、アジア航測)の航空測量部隊を取材した(2022年12月)。
(後編はこちら)
【前編:航空測量の仕事について】
写真1:アジア航測八尾運航所にて
■航空測量運航部門の体制と役割
アジア航測では、主に2つの部署が航空測量の業務を執り行っており、航空部29名・撮影部16名、総勢45名で調布飛行場・八尾空港を拠点に日本全国の航空測量を行う。
航空部 整備統括室・・・航空機の整備、機材搭載作業、メンテナンス
〃 運航統括室・・・航空機の操縦、地上からの操縦士支援・運航管理
撮影部 撮影課・・・機長と共に航空機への搭乗、撮影オペレーション(機械撮影・手動撮影)
■航空運送事業者と航測会社との違い ~撮影士にしか分からない乗務の大変さ~
航空機事業は、普段私たちが旅行や出張で使うような一般の方々を運送する“航空運送事業者”と、今回取材したアジア航測のような人の運送を目的としない“航空機使用事業者”とに区分される。本記事では、航空機使用事業者のうち、航空測量を主な事業としている事業者を航測会社と呼称して紹介する。
航測会社が運航する機体に搭乗する撮影士の身体的な条件として、視力以外に重要な点が一つある。それは乗り物酔いに対する耐性である。これは実際に搭乗してみないと分からない厄介なもので、航空測量は気流の乱れが多い高度帯を飛行することが多く一般的な航空運送事業者とは比較にならない程揺れる為、乗り物酔いに耐えながら撮影しているスタッフもいるという。航空測量や搭乗マニュアルなど勉強や経験則で解決できる事がある一方で、乗り物酔いに関しては一番困難な課題であり、慣れるしか手立てはないという。搭乗中は、パソコン、計器、地図、資料などを同時に見ながら、更に操縦士とコミュニケーションを取りながら業務を進めていく必要がある。また、限られた飛行時間内で最大限のパフォーマンスを出す為の効率性など、見えないプレッシャーも付け加えられるのであろう。
■航空測量の種類と作業の流れ ~整備士は、縁の下の力持ち~
航空測量業務には大きく分けると2つの種類がある。一つは「一般撮影」と呼ばれる顧客の要望に基づくもの、もう一つは災害時の被災状況などを撮影する「緊急撮影」である。
一般撮影は、アジア航測から顧客に対し計画・立案・提案なども行う。撮影希望日など顧客要望があるものも含めある程度計画的に運航することが可能である為、準備時間に余裕がある。機体の整備を統括する整備統括室は、年間・月間整備計画を立て、実際の飛行計画日程と照らし合わせて具体的な整備スケジュールに落とし込む。飛行予定日の1週間前程度から準備に取り掛かる。
写真2:実際の整備の様子
航空機には、飛行時間・飛行回数に応じて整備義務がある。ただし、天候が毎回晴れているわけでもなく、飛行スケジュールは日々変化していく。また、一般的な航空運送事業者のように、決まったルートを飛ぶわけではない為、なかなか整備するタイミングを図るのが難しい。常に飛行可能残時間をモニターし、残り25時間くらいになると整備の準備を始める。
一方、緊急撮影はいつ起こるかわからない状況で災害が発生する為、いち早く生のデータをどれだけ取得できるかが鍵となる。無論、飛行時は天候が良いとは限らない為、緊急撮影の場合は天候が悪い状況での撮影も往々にしてある。その場合は、早く現地に辿り着ける双発機(エンジンが2つ着いた飛行機)で向かい、即座にデータ撮影。いち早くデータを解析チームに届けるということが重要となる。アジア航測は、計画・撮影・解析と、この一連の作業を全て自社で完結することができる、まさに自社機保有の強みといったところだろう。
■毎日違う撮影コース ~操縦士の緊張感~
災害時の撮影は、各航測会社の自社判断となる為、いつどのタイミングで決まるか分からない。災害が多発した場合は、撮影場所の優先順位をつけて現場に向かう。災害が広域な場合や複合的に発生する場合は、他社と締結している災害協定に基づき連携して撮影場所を分担して対応を取ることもある。逆に、災害が1か所で起こった場合は、各社とも同じ災害地域を撮影する為、撮影した写真・地域などが酷似していることもある。
![]() 写真3:固定翼(左) | ![]() 写真4:回転翼(右) |
アジア航測の自社機は双発機1機を含む固定翼(飛行機)7機、チャーター機は回転翼(ヘリコプター)4機。そのうち固定翼(208A Caravan 675)と回転翼(Eurocopter AS350 Ecureuil/AStar)を見学させてもらった。
操縦士と撮影士とはバディを組んでいる。通常撮影時は操縦士・撮影士と合計2名で飛行機に搭乗し撮影作業を行うが、災害時の撮影は各社入り乱れて飛ぶので、航空事故防止の為にそれぞれに“見張り員”を搭乗させる必要があり計3名となる。いずれも一度の飛行時間は、最長でも凡そ7時間弱。朝離陸して、夕方着陸。勤務時間の大半を空の上で過ごすことになる。時間だけで見れば、アジア圏内の国まで辿り着くほどの距離だ。更に、飛行コースは毎回異なる為、操縦士は、計画とおり飛行できているか、漏れはないか、など、出発点と終着点のコースが決まっている一般旅客機とは異なる緊張感を持ちながら飛行機を操る。
航空測量に使う飛行機内には機内食もなければトイレも無い。その為、携帯用トイレを持ち込み、用を足すこともあるという。この長時間フライトで操縦士の集中力もかなり必要と想像されるが、フライトコース確認は撮影士や地上オペレーターとのコミュニケーションで成り立っている点も重要な要素といえる。
空の上で悪天候のなか緊張状態で長時間一緒に密室で業務を行うこともあり、ある種「異空間」での仕事とも言える。疲れてしまえば喋ることもやめてしまうこともあるという。操縦士と撮影士との相性とはとても大切であり、業務中如何に上手くコミュニケーションを取るかによって安全性にも関わってくる。その為にも、地上でできるだけコミュニケーションを取るということもとても重要であるという。
次回は、操縦士、整備士、撮影士が、どういった思いでこの業務に取り組んでいるのか、その人物像にフォーカスしてご紹介する。
取材・編集:G空間情報センター 保坂志保
(2023年3月メールマガジン掲載)