都市部におけるまちづくりのチャレンジ

 2022年9月に、「Oh MY Map!スムーズ地下・防災ver」がリリースされた。これは東京駅を中心とした大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有)エリアの来街者や就業者に向けて、地下街の地理空間情報を活用したWebアプリである。このアプリの提供を行っているのが、一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会(以下、大丸有まちづくり協議会)/株式会社NTTデータ(以下、NTTデータ)。今回は、このOh MY Map!を通して都市部における“まちづくり“と地理空間情報の活用について両者にお話しを伺った。


1.大丸有まちづくり協議会について 大丸有まちづくり協議会 毛井氏

都心において活動する大丸有まちづくり協議会はどのような組織なのか?

 1988年に大丸有まちづくり協議会が組織として動き出してから既に30年以上が経過しており、その核となる活動には、東京都・千代田区・JR東日本とともに策定する「まちづくりガイドライン」があります。このガイドラインの更新等を通じ、エリアにおける開発誘導や道路空間活用・観光強化など、まちづくりの将来像をハード・ソフトどちらも描きつつ推し進めていこう、という組織体が我々です。
 まちづくりは社会と共にあり、時代の要請に合わせて活動のテーマを環境・防災・MICE等と拡充してきています。

まちづくり協議会は住民が主体となることも多いが、この地域のまちづくり協議会の構成はどのようなものか?

 大丸有まちづくり協議会のメンバーは、法人企業のみで現在84社で構成されています。大きな特徴としては、街区の代表地権者が一者以上必ず入っているという点で、120haにも及びます。

 企業体が集まっている地域だからこそ、大丸有まちづくり協議会のユースケースは工業地や商業地などの場合は参考になるかもしれません。そしてこの特徴は、個々の企業の損得というよりもまち全体の中長期的利益に向けて比較的早期の意思決定が可能と言えます。しかしこれは特殊なケースだとは思います。一方で法人企業といえども働く人々の集まりであり、まちを訪れる方々もたくさんいらっしゃるのですから、個々人の視点からまちの魅力を高める努力も続けています。
 大丸有まちづくり協議会の運営においては、議論するテーマに合わせていくつかの部会や委員会に分かれています。 
 部会毎に毎年参加を募って行っているのですが、その一つにスマートシティ推進委員会というものがあります。この部会の施策の一つとしてOh MY Map!のプロジェクトに取り組んでいます。

Oh MY Map!は以前からサービス提供されているようだが、それよりも前から地理空間情報の活用は行っていたのか?
Oh MY Map!の開発背景なども踏まえて教えていただきたい。

 政府がSociety5.0を掲げた頃から、データをより活用したまち運営まちづくりを意識するようになりました。具体的には2019年から「データ利活用型エリアマネジメント」をキーワードに掲げ、活動しています。
 大丸有まちづくり協議会としても、国や東京都等の支援を受けながら、データ利活用型エリアマネジメント実現の為、都市OSやそれに付随するアプリ等の開発・構築を進めてきましたが、まちの活力は人々の移動と密接に関連することから、様々なデータをまちに滞在する人々へ届け、更にはそこから得られるデータをまちづくりに活用したいという思いから、今回のOh MY Map!の開発に至ることとなりました。
 Oh MY Map!スムーズ地下・防災バージョンは、昨年2021年12月から取り組んでいますが、それよりも以前から、都市OSに付随する機能としてデータライブラリも構築を進めており、まさにCKANをベースにNTTデータさん中心に開発をしていただいたり、地理空間分析にもチャレンジしたりしています。

 また、大丸有まちづくり協議会の関連団体として同じく大丸有エリアで活動しているエコッツェリア協会が、TOKYO OASISという日陰を選んで歩けるアプリを開発したりしています。

 地理空間情報の活用については、予てより取り組みをしているのですが、これまでの知見を積み上げつつ各プロジェクトを進めている、という感じです。



2.Oh MY Map!のシステムについて 株式会社NTTデータ 吉田氏

Oh MY Map!の開発の様子やシステムの特徴について教えていただきたい。

■システム構成
 大丸有のスマートシティ事業については、東京都の先行モデル事業の助成金などで一昨年(2020年)から、データ活用基盤(いわゆる都市OS)を、スマートシティ推進委員会の一員として、我々NTTデータが整備させていただいています。具体的には、この大丸有の様々なエリア情報が集まってくる情報基盤です。
 今回の9月のリリースでは、大丸有エリアの地下の地図をゼンリンさんに独自に分かりやすい形にデータ整備していただいたものを、全国基盤地図(ゼンリン)と融合し、一つの情報提供をしていくというのが大きな特徴です。更にその上にそのエリアの様々な独自の情報を色々と重畳させる、という取り組みを行いました。この作業が一番大変だった部分でもあり、今回のアピールポイントともいえます。


図:大丸有エリア都市OSとOh My Map!のシステムイメージ

 エリア固有の情報は、エリアマネージメント団体が保有する情報、オープンデータから取得した情報などを加工編集して、独自に整備しています。トイレの利用状況(満空情報)など、静的・動的情報の両方を組み込みその地域の総合情報を提供する形となっています。トイレの利用状況については、VACAN社との協力により情報掲載を行っています。

■スマートフォンアプリ
 一般的なGoogle MapやYahoo Mapなどでは階層ごとに分かれており、どこが地下でつながっているのか分かりづらい点があります。今回のOh MY Map!の大丸有エリアの地下地図では、どこが地下でつながっているのかを分かりやすいように一つのレイヤにまとめて表示させることで、地下で移動できる範囲が分かるようになり、また、アプリ上で地下と地上を同じ位置関係で見ることができるようになりました。

■9月リリースのスムーズ地下・防災バージョンについて
 今回リリースのOh MY Map!のバージョンは、防災関連の情報と移動のバリアフリー情報を中心に情報提供しています。
 バリアフリーを例に挙げると、地図上にアイコン(「△」に「!」)が表示されている箇所をクリックすると、段差や斜路等どのようなバリアフリーなのか写真で閲覧することが可能となっており、主に車いすで移動される方向けの情報として地上に移動できるエレベーターを目立つようにアイコン掲載しています。
 また、防災情報については、防災リンク集のほかに当該エリアの避難場所が表示されたり、災害時に災害情報が閲覧できる大型スクリーンの場所が表示することが出来るようになっています。

 それ以外の情報では、「便利」情報として、コンビニエンスストアなどの情報を現在整備中です。

 因みにですが、Oh MY Map!移動回遊バージョンというものもありまして、エリアのモビリティの情報やイベント情報を中心に掲載するバージョンもリリースさせていただいております。

G空間情報センターをどのように活用しているのか?

 G空間情報センターを参照し、大丸有エリアに該当するデータそのものを分解して整理し、Oh MY Map!に取り込む、ということをさせていただいております。
 例えば、Oh MY Map!の地図上に掲載されている建物内の詳細情報(主に「便利」情報の内容)については、G空間情報センターの情報を元に掲載しています。G空間情報センターから取得した情報については、こちらにリストが示されています。主に「東京駅周辺屋内地図データ」や「高精度測位情報」を色々な側面で使用させていただいております。実際に大丸有エリアで現地調査しつつ、元データを補正したり、見やすい形に加工して使用しています。

地下の位置情報を捉える際のスマートフォンの電波の入りやすさ・入りにくさ、バッテリー消耗に関する課題はなかったのか?

 現在位置の情報に関しては、今回は重要視していないです。スマートフォンの標準OSで持っている位置情報を元にデータ取得しているので、仰るとおり地下にいる際の情報精度は落ちます。しかし最近では、LTEからの補正情報などがあるため、思いのほかズレの誤差は少ないようです。
 スマートフォンのバッテリーの件についても特筆する対応を取っておりませんが、「アプリを使用中のみGPSを使う」などの対応で、問題も特に起きていないのが現在の状況です。

他にシステム開発などで苦労した点などは?

 先程もお伝えしましたが、実際に現地調査しつつ、元データを補正したり、見やすい形に加工・使用させていただいています。実際のところ、このデータと実際の建物構造調査には時間をかけています。例えばデータ上には改札情報があるが、現場に行ったところ実際には改札が存在しなかったりするケースがあった為、データと現場が一致して整備できれば良いと思いました。

 それと、情報の更新の頻度についてですが、G空間情報センターはCKANでオープンデータを公開いただいているので、元となるデータがアップデートされたら直接Oh MY Map!に反映される、というシステムワークフローも実現できたら素晴らしいですね。

 現在進行形で整備中のOh MY Map!ですが、今後考えていかなければならない点があります。
例えば、エレベーター・階段・スロープが、全て同じ位置情報で登録されている場合があります。これを単純に地図上に掲載すると表示的には重なってしまうため、手補正をして重ならないように回避して表示するようにしています。こういう作業を自動でスマートシティ的に実行していくことで、ユーザビリティ的に使いにくい点を回避するためにどのように対処していくか、を考えていくことが今後の重要な議論事項だと考えています。



3.最後にG空間情報センターの利用者に一言

■大丸有まちづくり協議会 毛井氏
 地下空間の情報、特にG空間情報センターを使わせていただくことによって、今回初めて大丸有エリアの地下情報を知った・認知した、と感じています。
 実際にこの地下空間を歩いている人も知っている人は知っているが、知らかった人は知らないではっきり分かれています。より細やかな便利な情報・・・例えば、雨の日は地下通ろうよとか、、このエリアにいる街の人の行動の選択肢が増えるような使い方を今後も充実していけたらと考えています。
もう一つぜひお伝えしたい点として、Oh MY Map!は今回「作った」で終わりではない、ということです。このアプリを色々な方や大丸有まちづくり協議会の他の会員の方に見ていただくと、「ここはもっとこういう表示した方が良い」、「ここは自分も通勤しているが、(見た目より)もっと分かりにくいから、“もっと分かりにくい“ということを他の人に分かるようにして欲しい」というようなコメントもいただいています。
 我々はこのアプリを育てていくようなイメージを持っています。その為に、地理空間情報との付き合い方を現在学んでいる最中です。大丸有まちづくり協議会としても、この辺をしっかり実施し且つエリアの中でみんなが周りの人に地図で分かりやすく表示できるよう、これからも続けていきたいです。

■NTTデータ 吉田氏
 エレベーター・階段・スロープの同じ位置情報で重なって表示される」という件は、今回やってみて初めて分かったことでした。システム的な実現と、実際に使ってみてのユーザビリティの検証・改善は別なところにあるんだな、ということにはっきりと気付かされました。ユーザビリティの問題解消については、これからも積極的に取り組んでいきたいと考えております。
 「(アプリを)育てていく」と毛井さんが言っていましたが、継続的に情報アップデートしていくという点については、どうしても人的作業負荷がかかってしまうという課題があります。この点を如何にハードルを下げていくか、というのが私共としても重要視して取り組んで行きたい思いです。個人的には利用ユーザの皆さんに、「ここの位置が違うよ」「ここの情報が足りないよ」「ここにこういう危ないところあったよ」などの情報を提供いただいて、システムに取り込める反映できる仕組みがあったら良いな、と思っています。これからもより良いアプリに育つよう、アイディアを考えて行きたいです。

■関連サイト
 Oh My Map!
 大丸有まちづくり協議会
 大丸有エリアマネジメント型スマートシティ
 大丸有データライブラリ

(2022年10月メールマガジン掲載)